最初にこの曲を聞いたときに、私はビル・エヴァンスの演奏かと思いました。
この曲は、アルバン・ベルクという作曲家が、20世紀の前半の作曲界のムーヴメントの最先端として作った曲です。
ヨーロッパの芸術としての音楽は、教会音楽の旋律を組み合わせた対位法から、やがて和声と言う概念が取り入れられ古典音楽へと進歩していきました。その後200年間は旋律を主体にしたり、大規模にしたりとロマン派に進んでいきましたが、音楽の根本的な和声や旋律の「文法」には変化がありませんでした。
そして、その文法を使って先人の天才たちが作れるものは全部作って、もう新しいものが作れなくなった20世紀、その文法を全否定して始まったのがベルクたちの音楽です。
ビル・エヴァンスはモード・ジャズの代表的なピアニストです。ジャズも、バップという従来のコード進行とコードの中の音だけを使うアドリブ演奏の限界を迎え、1950年代後半から斬新なコード進行やコード以外の音も取り込んだ旋律=モードを使った演奏が始まりました。
前者の第一人者は、ジョン・コルトレーンでその独自のコード進行は、ベルクと同時代に民族音楽を元に斬新なコード進行を試みたクラシック界の天才バルトークと似通っています。後者の第一人者は、マイルス・ディヴィスやビル・エヴァンスです。音をコードで規定することなく、コードの基音や属音に関連する音も含むモードにコードを開放してより自由度の高いアドリブを可能にしました。
違う時代に違うところから進歩した音楽は、実は似通っていたのです。結局は、人間が考えることっていうのは限りあるものかもしれません。